年の差恋愛
「ただ事じゃない叫び声の原因がゴキブリだと?」

睨みを利かせてそう言った市来部長。亜美ははて?と首をかしげる。

「…お前ってヤツは…あ。おい、叩く物」
「…へ?あ、はい」

直ぐ側にあった雑誌を亜美は市来部長に差し出す。すると、素早い動きで黒々としたあいつを、見事退治した。

ティッシュにくるむと、ゴミ箱に捨てた市来部長は、雑誌を亜美に返すが、亜美は首をブンブン振って受け取らない。

当然、市来部長は怪訝な顔で亜美を見下ろす。

「…気持ち悪いので、捨ててもらえます?」

亜美の言葉に、もう呆れるしかない市来部長は怒る気力も無くなり、雑誌も、ゴミ箱に捨てた。

「…すいませんでした。助かりました」
「…頼むから、こんな時間に叫ぶのは止めてくれ。心臓に悪い」

「…すいません」

市来部長の言葉に、シュンとする亜美。

「…それから」
「…まだ、何か、怒り足りませんか?」

ビクビクしながら、上目遣いに市来部長を見る亜美。

「…家の鍵は、ちゃんとかけろよ。直ぐに開いたから、驚いたぞ」

「…やっぱりダメですかね?寝る前には閉めようと思ってたんですけど」

東京でも、田舎よりに住んでた亜美は、鍵をかける習慣がない。寝る前には、流石に鍵を閉めるようにしているが。

「…都会を甘く見るな。鍵はかけろ、いいな?」
「…はい、わかりました…あの」

「…なんだ?」
「…また、あいつが出たら、助けてもらえますか?」

亜美の切実な願いなのだが、市来部長は呆れ顔でポカンと亜美の頭を軽く叩いた。

「それくらい、自分でなんとかしろ」

無理です‼︎と言う目で訴える亜美。その顔を数秒見つめていた市来部長…

「…家にいたらな」

と、捨て台詞を吐くと、亜美の部屋を出て行った。
< 10 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop