年の差恋愛
その日の晩は、念の為入院したが、次の日からは、遅れてだが、しっかり出社して、仕事をしている日向。

利き手とは反対を切られていたのが、不幸中の幸いだった。

総務部の社員達には、ただのケガをした事になっているが、事情を知っている亜美は、いくら利き手とは反対の手とはいえ、不便な事も多く、何かと世話を焼いていた。

そんな2人を見ていた総務部の社員達は、亜美と日向は付き合っているんじゃないかと噂するようになった。

その噂は、たちまち社内中広まっていく。

だが亜美は、仕事と日向の世話で忙しく、そんな噂が立っている事も知らなかった。


「…亜美ちゃん」
「…どうしたんですか?何か困ってる事でも?」

定時を過ぎたオフィスの中は、亜美と日向の二人だけ。

仕事の手を止めた亜美が、部長席の方を見る。日向は困ったような笑みを浮かべた。

「…安藤部長?」
「…結婚式の準備は、順調?」

「…そう、ですね。全部決めてしまっていたので、後は、式の当日までは、特にする事もないですけど」

「そっか…あのさ」
「…はい」

「…その結婚式、白紙に戻せないかな?」
「…ぇ」

日向の言葉に、驚き過ぎて、言葉を失う亜美。

「…この腕が、もうちゃんと機能しなくなったって言ったら、亜美ちゃんは、俺の側にいてくれる?」

「…う、そ、ですよね?」
「…嘘じゃないと言ったら?」


日向の言葉に、亜美は口元を手で押さえる。

「…市来統括部長、…亜美ちゃんを、俺に下さいと言ったら、許してくれますか?」

日向の目線は、亜美の向こうに向けられた。
< 105 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop