年の差恋愛
「…悪い人ではない、のかな?」

しばらく、玄関のドアを見つめていた亜美が、ポツリと呟く。

…ゴキブリ退治してくれたし。…また出たら、退治してくれるって言ってくれたし。…ちょっと見直したかも。

亜美はちょっと嬉しくなって、小さく笑うと、キッチンに戻り、料理を再開。

出来上がった料理に、一人満足して食べると、片付けを済ませ、お風呂に入って、お肌のお手入れを入念にして、ベッドに潜り込んだ。

黒々としたあいつを退治してくれたおかげで、亜美はその夜、ぐっすり眠れた。

…次の日、早い時間に身支度を整えると、ソロ〜と、玄関を開けた。

「…よし、いない」

悪い人ではない事はよーく分かったが、怖い事に変わりはない市来部長。

亜美は、朝から市来部長に会う事は避けたくて、辺りを見回し、安堵した。

そして、総務部の誰よりも早く出勤すると、みんなのデスクを拭いていく。別に、そういう決まりがある訳じゃない。

でも、みんなが毎日気持ち良く仕事が出来ればいいなぁと、亜美が勝手にやってる事だった。

そしてもう一つ、亜美の業務がある。それは。

「おはようございます。お茶、どうぞ」
「…おはよう、ありがとう。澤田さんが淹れてくれるお茶って一味違うんだよな」

と、総務部のみんなが口を揃えて言ってくれるので、亜美は総務部で働ける間は、続けるつもりだ。

「おはようございます。市来部長、お茶どうぞ」
「…お前の仕事はお茶汲みか?」

…一人だけ、ありがた迷惑の人物もいた。
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