年の差恋愛
「…なんの事です?」

日向は怪訝な顔で、美鈴を見た。

「…その手、本当は治っていない。いいえ、もう、まともに動かない」
「…私生活に支障はありませんから」

…日向の手の傷は、思った以上に深く、神経をも傷つけていた。治療の甲斐もなく、その手は完璧な状態には戻らなかった。

「…私が貴方の左手になります」
「…俺は、貴女と向き合うつもりはないと言ったはずです。だからもう、俺の事は放っておいてください」

そう言い捨てると、日向は美鈴の横を通り過ぎていく。…が、美鈴が日向の左手を掴んだ。

日向はその手を振り払おうとしたが、うまく力が入らず、振り払えなかった。

「…どんなに嫌われてもいい。私は、日向さんの、傍にいますから」

美鈴の言葉に、日向は溜息をついた。…そして、ククっと笑う。

「な、何が可笑しいんですか?」

顔を真っ赤にして、美鈴は反論する。

「…強がっているようですが、美鈴さんの手が、あまりに震えているので」

「こ、これは…」

そう言って俯く美鈴の顔を覗き込むと、日向は美鈴に、問いかけた。

「…家までお送りしますよ」
「…」

そう言うと、助手席に美鈴を乗せ、自分は運転席に乗り込むと、エンジンをかけた。

「そんな手で運転できるんですか?」
「…心配なら、降りてくださって結構ですよ」

「…お、降りません!」

やっぱり強がる美鈴に、日向は終始笑いっぱなしだった。
< 114 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop