年の差恋愛
「…やっと帰れるな」
「…度々ご迷惑をおかけしてすみません」

市来部長の言葉に、恐縮するしかない。

帰り支度をした市来部長が、先に立ち上がり歩き出す…が、くるりと振り返ると亜美を見た。

「…真っ直ぐ帰るのか?」
「…はい、そのつもりですけど」

「…じゃあ、一緒に帰るか?」
「へ⁈」

思いがけない提案に、驚きを隠せない亜美。

「…あの人気も街灯も少ないあの道を一人で帰るのか?」
「…ぅ、それは」

…正直嫌だ。痴漢に遭うのも嫌だし、そもそも、暗い場所が大の苦手だ。…オバケが出そうで。

「…先に帰るぞ」
「…ぇ、あ!待ってください。一人は嫌です」

本気で怖くなった亜美は、市来部長を追いかけた。

…、とはいえ、会社の人に、二人でいるところを見られて、要らぬ誤解をされては困るので、亜美は市来部長から少し離れたところを歩いていた。

…最初は人通りも多く、大丈夫だった亜美だったが、だんだん人通りも少なくなり、ちょっとした物音にビクッとなる始末。

ふと、振り返った市来部長は、そんな亜美を見て、溜息をついた。

「…おい」
「…はひっ!」

突然呼ばれて変な返事をしてしまった。

「…ったく。…行くぞ」
「…え、あ、え⁈」

怖がり過ぎる亜美を見兼ねた市来部長は、亜美の手を握ると、マンションに向かって歩き出す。

亜美は怖さなど吹き飛んで、心臓が飛び出るほど、早く鼓動を打ち始める。
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