年の差恋愛
「…何やってんだ?手なんか伸ばして」
「…あ、いえ、別に」

勢いで、このまま市来部長に告白するという手もあるが、今の状況だと、振られる確率は、ほぼ100パーセント。

亜美は思い留まり、苦笑いを浮かべた。

「…変な奴だな」

市来部長は、亜美から手を離すと、また歩き出した。亜美も、バツの悪そうな顔をしながら、後ろを歩いて帰る。

いつもなら、市来部長の足はとても早く、亜美なんて追いつけない。でも今は、亜美には気付かれないように、歩調を緩めていた。…怖がりな亜美の為だという事を亜美が知る訳もなく。

「…澤田、お前、好きな男いるんだな」
「なっ⁈…何を藪から棒に…」

「…だから、さっきの話、ほぼ全部聞いたって言っただろ?…それとも、告白を断る為の言葉のあやか?」

…エレベーターの前、市来部長が亜美に問いかけた。

「…言葉のあやとかじゃないですよ…本当にいますよ。好きな人」

「…ふーん」

…ふーんって。聞く気がないなら聞かないでほしいと思いながら、亜美は溜息をついた。

…エレベーターに乗り、6階へ。

その間、2人は黙り込んだ。
部屋の前、2人はドアの鍵を開けると、市来部長が何か言いたそうな顔で、亜美を見下ろす。

「…何か?」
「…澤田の」
「…え?」


「…いや、なんでもない。おやすみ」
「…おやすみ、なさい」

市来部長は一体何が言いたかったのか?亜美は首をかしげると、自分の部屋に入って行った。
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