年の差恋愛
市来部長に抱き締められて、亜美は、目を見開く。

「…泣く必要も、謝る必要も、澤田にはない」

「…」

「…澤田が、あの事務処理をしてないのはすぐに分かった。…でもあの時、犯人を問い詰めてる時間がなかった。早く処理しないと、会社に多大な損害が出そうだったから」

…誰一人、分かってくれないと思ってた。だから、自分の気持ちを押し殺して、ミスを被るつもりでいた。

…でも、ちゃんと分かってくれる人がいた。…それだけで、こんなにも気持ちが救われるなんて。

亜美は、自分の気持ちを知ってもらって分かってもらえて嬉しくて、市来部長の胸に顔を埋めて泣いた。

市来部長は何を言うでもなく、ただ亜美をぎゅっと抱き締めていた。

どれくらい泣いていたのか、いつしか涙は止まり、それでも亜美は、市来部長の胸の中にいた。

「…澤田、…俺は、お前が放って置けない」
「…ぇ?」

亜美は市来部長を見上げた。

「…とろくさい新人だって、最初は呆れてた。仕事は遅いけど、ミスなくちゃんとこなして、今では大分早くなった。真面目で、人のミスは被るし、ゴキブリ嫌いだし、お前に色んなことがある度に、俺がなんとかしないと、…俺が傍にいてやらないとって思うようになって、気がついたら、どうしようもなく好きになってた」

「…市来部長」

亜美に名を呼ばれ、市来部長は困ったように微笑む。

「…年が離れすぎてる。俺とお前じゃ釣り合わない。こんなおっさんじゃ、嫌だよな…そう思って何度も諦めようと思った。でも、出来なかった。お前に好きな男が居るって分かったら、いてもたってもいられなくて、振られてもいいからこの気持ちだけは伝えたかった」
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