年の差恋愛
エレベーターの中、重い沈黙が嫌で、亜美は、市来部長に問いかける。

「…市来部長、部屋は何階なんですか?」
「…聞きたいか?」

…聞きたく無い。と、思ってしまい、口籠る。

…チンという音。6階に着いたようだ。亜美は小さく溜息をついて、やっと市来部長から離れる事に安堵した。

「…お疲れ様でした。おやすみなさ、い?」

同じ階で降りた市来部長に目が釘付けになる亜美。なんか文句あるのか?と言う目で見られ亜美は笑顔が引き攣る。

「…そこなんですか、市来部長の部屋」
「…だったらなんだ」
「…いえ」

…悪夢だ。…神様、イタズラが過ぎます。目を閉じて、開けたら夢だったと、誰か言ってください。

一瞬ギュッと目を閉じた亜美が、静かに目を開ける。

「…夢じゃ、ない」
「…疲れてるなら、さっさと部屋に入って寝ろ」

バタン。…、放心状態の亜美に捨て台詞を吐いた市来部長は、自分の部屋に入ってしまった。

…亜美がこのマンションに越してきたのは先週の日曜日。同じ階の人には挨拶に行ったが、隣の『市来』と言う表札の部屋は留守で、早く仕事から帰って来たら、また、挨拶に行こうと決めていた。

総務部の部長の名字が『市来』だとは思ったが、まさか、隣の部屋の人と、同一人物だとは思わなかった。
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