私を見つけて
「あ……」

フロアを一周して、元にいた場所に戻ってみると、窓際の長机に一人の男の子が座っていた。
パーカーのフードが学ランから出ている。
中学生じゃない。高校生くらいかな。
こちらに背中を向けて、頭を抱えている。
小さな声でぶつぶつとつぶやいているようだ。
近づいて後ろから見てみると、数学の教科書と真っ白なノートが開かれていて、その子が「やばい」とぼやくのが聞こえた。
教科書を見ると、そんなに難しくない問題だ。
こんなところでつまっているなんて。
だいぶ前からやり直したほうがよさそうなのに。

「ほんと。やばいね」

どうせ聞こえないんだから、と好きなことを言ってみた。
もっと前からやり直せば?と続けようとしたら、男の子がばっと振り返った。

「えっ!? お前、いつからいたんだよ!」

「え?」

男の子は目をまん丸にしている。
私の目もそれに負けず劣らずまん丸になっているだろう。

もしかして、私のほかに誰かいるのかな?

恐る恐る後ろを振り返ってみても、誰もいない。

「わ、私?」

まさか、と思って聞いてみると、その子はぶわっと吹き出した。

「他に誰がいるんだよー」

私が見えるの?という質問をなんとか飲み込んで、私は「そうだね」とあいまいに笑ってみせた。
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