私を見つけて
「追試、いつ?」

私が訊ねると、その人は横目でちらりと私を見た。

「二月末」

あと一ヶ月近くある。
私は少し考えて口を開いた。

「教えてあげようか。追試まで」

正直に言うと、数学はそんなに得意じゃない。
人に教えられるレベルじゃないけど、この人が今している問題は私の学校じゃ二年生の始め頃にやった部分だった。
これくらいなら、教えられる。
それに、私のことが見えるこの人とのつながりを断ち切るのはいやだった。
ずっと誰にも気づいてもらえなかったから、人とのかかわりに想像以上に飢えていたみたいだ。

そもそも今日はどうやってここに来れたのかわからないんだし、明日も来れるかわからないんだけど。
もし来れなかったら約束を破ることにはなるけど、それならそれで仕方ない。

「まじで?」

その人は、眉毛をあげて驚いた顔をした。
さっきは自分から教えて、って言ってきたくせに。

私がこくりとうなずくと、嬉しそうに笑って「助かる」と言う。

「俺、千章(ちあき)」

「ちあきくん?」

「ん。てかアキでいい。そう呼ばれてるから」

アキは少しぶっきらぼうに答えて、そっちは?とシャーペンの芯をカチカチと出しながら聞いた。

「私は……さくら」

「さくらね。よろしく」

アキは出すぎたシャーペンの芯を人差し指ですぅーっと押してから、私を見て笑った。

なにこの人。
やっぱりなれなれしいな。
普通、初対面ならさくらちゃん、とか言うよね。
そう思ったけど、私はなんにも言わずににっこりと笑ってみせた。
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