私を見つけて
「楽しそうだね」

私は顔を上げてアキの顔を見た。

思ったとおり、アキの顔は笑っている。

「うん、たのしー」

受験しないからと言っても、追試で合格しないと留年しちゃうっていうこの状況にあせったりしないのだろうか。
私だったら、こんなときに笑ってなんかいられない。

「なにがそんなに楽しいわけ?」

やれやれと思いながら、聞いてみるとアキは「全部」と答えた。

「全部?」

「そー。なんか留年かかってる今のやばい感じとかー」

「……へぇ」

「さくら、目ぱちぱちしすぎだから」

アキの大きな声と笑い声が静かな図書館内に広がって、アキはあわてたように「やべ」と声を潜めた。

私とアキは無言のまま、しばらくあたりの様子を伺う。
司書の人が注意しにくるかと思ったけど、誰も来なくて胸をなでおろした。

「声が大きいんだよ」

私の声はきっと他の人には聞こえていないのだろうけど、それでもつい小声になってしまうから不思議だ。

「だって、おもしろいから。さくらが」

「私が?」

「そー。なんかおもしろい。こんな暗い図書館に突然現れて、勉強教えてくれるとか。謎すぎて」

「アキってなんでも楽しめるんだね」

「んー。そうかもー」

半ば、嫌味で言った私の言葉もアキには褒め言葉に聞こえるらしい。
まんざらでもなさそうな顔でアキは笑った。

「ま、いいや。勉強しよう」

私が言うと、アキははいよ、と軽い声で返事をした。





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