私を見つけて
『閉館の時間になりました』

図書館内にアナウンスが流れて、アキはノートから顔を上げた。

「閉館だって」

アキはポケットからスマホを取り出して「七時」と呟くように言った。

「遅くなったな。家まで送るよ」

スマホから窓の外に目をやってアキは言う。

「大丈夫。すぐだから」

「いや、でも」

「ほんとに大丈夫だから」

私はきっぱりと言い切る。
送ってもらうなんて無理だ。
私は幽霊なのだから。

「そっかー。わかった」

アキが引き下がってくれてホッとした。
そういう空気は読める人みたいだ。

「明日も同じくらいの時間でいい?」

教科書やノートをリュックサックにしまっていたアキに聞いてみた。
今日みたいに、うまく来られるか自信はないけど、今の私は幽霊なんだ。
飛行機でくるわけじゃないし。

「まじ? 俺はいいけどさくら、いいの?」

「いいよ。暇だから」

ずっと病室で眠り続ける自分を見ているのはもう嫌だ。
泣いてるみんなを見るのも。

「ありがとー。助かる。俺、なんかいけそうな気がする!」

アキはリュックサックを背負いながら楽しそうに笑った。

「じゃあ、私行くね」

そういい残して私は席を立つと、一人で図書館の出口に向かった。

私はアキにしか見えないのだから、二人で話しているところを誰かに見られたら、私の招待が幽霊だと気づかれてしまうかもしれない。
アキは私が今話ができる唯一の人だ。
怖がられてしまっては困るのだ。

本棚の向こう側に回って、アキから姿が見えなくなったところで、私の意識は途絶えた。

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