私を見つけて
次に気がついたときには、私はまた病室の丸椅子に座っていた。
空の色は明るい。太陽の高さから昼過ぎくらいだろうか。
天気はいいみたいだけど、病室の外の木が大きく揺れているから、風が強いのだろう。
枕元に吊り下げられている、私の血圧や体温なんかが記入されている表を見るとアキに勉強を教えた次の日になっていた。
今日も、お母さんが付き添っている。
お父さんは仕事に行ったのかな。
お姉ちゃんは大学かな。
お母さん、すっかりやつれてしまった。
たった二週間ほどで、一気に十歳くらい歳をとったように見える。
子どもが交通事故で意識不明だもんね。
いつ目を覚ますかわからない。
ずっとこのまま、なんてこともあるのかもしれない。
そんなの、死ぬより大変だよね、お母さん。
個室の病室の中には、お姉ちゃんが持ってきてくれた音楽が小さく流れていた。
人間の五感の中で、最後まで残るのは耳だと先生が言ったから、こうして音楽を流してくれているみたい。
このアルバムを選んだのはお姉ちゃんだろう。
私の好きなアーティストの三枚組のベスト盤で、ラブソングばかりを収録したもの。
でもね、お姉ちゃん。
私が好きなのはこのアルバムじゃない。
私はもう一枚の元気がでる歌ばかりを収録してるほうが好きなんだよ。
一緒に暮らしていても、こんなものだ。
好きなアーティストは知っていても、その中のどれが一番好きかまではわからない。
私だって、お姉ちゃんが誰のどの歌が一番好きかまではわからないもの。
歌だけじゃない。
よく考えたらお姉ちゃん自身のこともよく分かってないかもしれない。
ゆり。それがお姉ちゃんの名前だ。
ゆりとさくら。
同じ平仮名の同じ花の名前だけど、印象が全く違う。
背が高く凛としてしかも聡明なお姉ちゃん。
それに対して、背も低く幼い顔立ちをした私。
小さい頃からなにかと比べられてきた。
二歳年上のお姉ちゃんは、地元でも有名な進学校に通って、今はこれまた名の知れた大学に通っている。
高校生の頃は生徒会長もしていたし、演劇部では脚本を書いていて、コンクールで入賞したこともある。
脚本を書いていたときのお姉ちゃんは、とても楽しそうで、イキイキとしていたから、私はお姉ちゃんは脚本家になるために芸大に進むのかな、と思っていたのに、お姉ちゃんが選んだのは芸大でもなんでもない、ただの経済を学ぶ大学だった。
一度だけ、どうして芸大に行かないのか聞いたことがある。
「芸大に行っても就職先がないみたいだから」
お姉ちゃんはなんてことないみたいにそう言った。
脚本家になりたいのかな、と思ってたのに。
そんな言葉を私は飲み込んで、「そうなんだ」とだけ返した。
脚本が書けるなんて、なんにもない私からしたら、ものすごくうらやましいことなのに。
なんでも持っているお姉ちゃんからしたら、そんなことはとてもちっぽけなことなんだって知って。
昔から完璧すぎてよくわからないと思っていたけれど、あの日以来、私はますますお姉ちゃんのことが理解できなくなった気がする。
まるで、よくできたアンドロイドみたいだな、って思うくらい。
お姉ちゃんは完璧に見える。
空の色は明るい。太陽の高さから昼過ぎくらいだろうか。
天気はいいみたいだけど、病室の外の木が大きく揺れているから、風が強いのだろう。
枕元に吊り下げられている、私の血圧や体温なんかが記入されている表を見るとアキに勉強を教えた次の日になっていた。
今日も、お母さんが付き添っている。
お父さんは仕事に行ったのかな。
お姉ちゃんは大学かな。
お母さん、すっかりやつれてしまった。
たった二週間ほどで、一気に十歳くらい歳をとったように見える。
子どもが交通事故で意識不明だもんね。
いつ目を覚ますかわからない。
ずっとこのまま、なんてこともあるのかもしれない。
そんなの、死ぬより大変だよね、お母さん。
個室の病室の中には、お姉ちゃんが持ってきてくれた音楽が小さく流れていた。
人間の五感の中で、最後まで残るのは耳だと先生が言ったから、こうして音楽を流してくれているみたい。
このアルバムを選んだのはお姉ちゃんだろう。
私の好きなアーティストの三枚組のベスト盤で、ラブソングばかりを収録したもの。
でもね、お姉ちゃん。
私が好きなのはこのアルバムじゃない。
私はもう一枚の元気がでる歌ばかりを収録してるほうが好きなんだよ。
一緒に暮らしていても、こんなものだ。
好きなアーティストは知っていても、その中のどれが一番好きかまではわからない。
私だって、お姉ちゃんが誰のどの歌が一番好きかまではわからないもの。
歌だけじゃない。
よく考えたらお姉ちゃん自身のこともよく分かってないかもしれない。
ゆり。それがお姉ちゃんの名前だ。
ゆりとさくら。
同じ平仮名の同じ花の名前だけど、印象が全く違う。
背が高く凛としてしかも聡明なお姉ちゃん。
それに対して、背も低く幼い顔立ちをした私。
小さい頃からなにかと比べられてきた。
二歳年上のお姉ちゃんは、地元でも有名な進学校に通って、今はこれまた名の知れた大学に通っている。
高校生の頃は生徒会長もしていたし、演劇部では脚本を書いていて、コンクールで入賞したこともある。
脚本を書いていたときのお姉ちゃんは、とても楽しそうで、イキイキとしていたから、私はお姉ちゃんは脚本家になるために芸大に進むのかな、と思っていたのに、お姉ちゃんが選んだのは芸大でもなんでもない、ただの経済を学ぶ大学だった。
一度だけ、どうして芸大に行かないのか聞いたことがある。
「芸大に行っても就職先がないみたいだから」
お姉ちゃんはなんてことないみたいにそう言った。
脚本家になりたいのかな、と思ってたのに。
そんな言葉を私は飲み込んで、「そうなんだ」とだけ返した。
脚本が書けるなんて、なんにもない私からしたら、ものすごくうらやましいことなのに。
なんでも持っているお姉ちゃんからしたら、そんなことはとてもちっぽけなことなんだって知って。
昔から完璧すぎてよくわからないと思っていたけれど、あの日以来、私はますますお姉ちゃんのことが理解できなくなった気がする。
まるで、よくできたアンドロイドみたいだな、って思うくらい。
お姉ちゃんは完璧に見える。