私を見つけて
「しんどいけど楽しいなんて、変。なにが楽しいの?」

だいたい、マラソンというものは、なんのためにするんだろう。
五キロを何分で走ったからといって、それがなんの役にたつんだろう。
そもそも、そんなしんどいことをどうしてしなきゃいけないんだろう。

そんな私の疑問を、まるでボールを蹴るように、アキは笑い飛ばす。

「楽しいから楽しいの。理由なんてないよ」

私はしんどいことはしたくないし、理由もなくなにかをしたりはしない。
私がなにかをするときには必ず理由があるし、逆に言えば、理由がないなら無駄なことはしない。
私だけじゃない。周りの友だちもみんなそうだと思う。
でも、アキは。

「さくら、マラソンとか嫌いそう」

「当たり前だよ。大嫌い」

「まじめにやってなさそうだもんな」

「そんなことはないけど……」

一月のマラソン大会だって、そこそこだったのだ。
ちょうど真ん中くらいの順位。
それが、私なのだ。

「部活とかやってないだろ」

「まぁね、うん」

「やっぱりな」

「だって、そんなにやりたいこともないし」

どうせ、というとなんだか卑屈になっているみたいだけど、どうせなにか始めたところでプロになれるわけでもないし、全国大会に出られるくらい上達するとは思えないし、そうじゃなくてもたとえば寝食も忘れちゃうくらい夢中になってやれるようなこと、私にはないと思う。
あきらめているわけじゃないけど、そういうのがある人って、本当はすごくまれだと思う。
私だけじゃない。みんなそうだと思う。
なりたいものがある人なんてほんのわずかで、なりたいものになれる人は、きっともっと少ない。

「そう? 俺はたくさんあるけどなー」

「たくさん? たとえば?」

私は思わず大きな声で聞き返した。
やりたいことがたくさんあるだなんて。

声でかいってば、と笑ってから、アキは椅子の背もたれにもたれて天井を見上げた。
パイプ椅子がぎいと音を出す。

「たとえば……そうだな。まずは無事に卒業したいな。サッカーも続けたいし、マラソンでは十位以内にはいりたいし、もうすぐバレンタインだからチョコレートもらいたいし、それに」

「もういいよ」

真剣に聞いた私がなんだかばかみたい。
どれもこれも本当にくだらない。

「待て待て。ちゃんと最後まで聞けよ」








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