私を見つけて
アキは戸惑ったようにしばらく黙ったあと、「うれしいな」とぽつりと言った。

「そんなこと、初めて言われたわ、俺」

「そう? 職人さんって感じでかっこいいと思うけど、私は」

「俺もそう思うー」

アキはそう言って、指先で髪をいじる。

「どんな人も帰るのは家なんだ。金持ちも貧乏な人も、マンションとか一戸建てとかアパートとかあるけど、帰るのは家なんだ。誰にとっても一番安心していられる場所が家なんだよな」

うまく言えないけど、とアキは少し恥ずかしそうに言って続ける。

「そいでさ、どんなにコンピューターが発達しても、そんな家を建てるのは結局は人なんだよな」

そうだね、と私はこたえた。
考えてみれば、この世の中にはたくさんの職業があるんだ。
スーツを着てパソコンに向かってる人だけがこの世の中を回しているんじゃない。
そんな簡単なこと、分かっていたつもりだったけど。

「さくらは?」

急に話しかけられて、私はえ?と聞き返す。

「なにになりたいの?」

「わ、たしは。とりあえず大学に進学することかな」

大学を卒業したら、きっとそこそこの会社に入社して、そこそこの仕事をするんだろう。
そこそこの業績を上げるだろうし、そこそこの恋愛をして、そこそこの人と結婚して。

生きていればの話だけど。

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