私を見つけて
お父さんは静かに涙をこぼしていた。
たまに、涙をこらえるように上を向いた。
だけど、目じりから涙は流れ続けていた。

「まだ、死んではいけないよ。さくら」

静かな声だった。

「さくらと行きたい場所があるんだ。教えたいことも、見せたいものも、お父さんにはたくさんあるんだ。
お父さんより、先に死ぬなんて、許さないからな」

はい、と返事をした。お父さんには聞こえないけれど。

もっと、お父さんと話をしていたらよかった。
素直にそう思った。
私の中のお父さんという引き出しは、とても少なくて。
もっと、お父さんのことをよく知りたい。

いまさら、そんなことを思った。



< 30 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop