私を見つけて
「別にしてないし」

なんだか恥ずかしくて、私はあわてて無愛想な表情を作る。
別にアキだからってわけじゃない。
私に気づいてくれる人がいるっていうのが嬉しいだけ。
たまたまそれがアキっていうだけ。

「なんだ」

いかにも「がっかりした」というアキの声がおかしくて、私はつい表情を緩めてしまう。

「椅子、ひいて」

はいはい、と笑いながらアキがひいてくれた椅子に浅く腰掛けて、「問題、解いてきた?」と尋ねる。

「もちろん、見てよ。自信ある」

ごそごそとリュックからノートを取り出したアキは何かに気がついたように「あ」とつぶやいた。

「なに? もしかして忘れた?」

ノートを学校か家にでも忘れてきたのかもしれない。

「いや。携帯が、ない」

あれ?あれ?といいながら、アキはリュックの中を覗き込み、サイドのポケットに手を突っ込む。

「ない……。どうしよ」

アキは途方にくれた様子で私の顔を見つめた。

「どうしよって……」

知らないわよ、そんなの。

そう言いたい気持ちをこらえて「最後に見たの、いつ?」と聞いてみる。

「学校、出るとき……かな?」

アキは斜め四十五度上を見ながら慎重にゆっくり答えた。

「じゃあ、学校に忘れたんじゃない?」

「ね、鳴らしてみてよ。俺の携帯」

誰かでてくれるかもしれないし。とアキは言う。

そんなのできるわけがない。
私は携帯を持っていないし、持つこともできない。
だけど、本当のことをいうわけにもいかず、私は「いやだよ」とだけ答えた。

「なんでだよ」

「だって……。あ、ほら私の番号がばれちゃうじゃん、アキに」

それなら不自然じゃないはず。
私としては、とにかくアキが私の正体に気がつかないように、と思っただけで、他に意味はなかったのだけど、その後のアキの顔を見て、しまった、と思った。

アキはしばらく黙り込んでいた。
私の言った言葉を考えているようだった。




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