私を見つけて
また、あの女の人が来ている。
この病室の入口あたりでお母さんと向かい合っている。
お母さんがヒステリックに泣きながら、その人を罵る。
女の人は黙って頭を下げ続け、やがて帰っていく。
毎日毎日、罵られるとわかっていて、それでもこうしてここに来ることに、私は尊敬すらしている。
その勇気を称えたいとさえ思っている。
お母さんに聞かれたらとても怒られそうだけど。

ピッ、ピッ、ピッ、という規則正しい音が鳴り続ける病室。
その音は私の心臓なまだなんとか動いている証。
だから正確にいうと、私は幽霊というよりも生霊っていうのかな。

女の人が帰ったあと、お母さんは深呼吸を何度も繰り返した。
自分の気持ちをなんとか押さえ込もうとしているようだ。
それから、大きなため息をひとつ吐いて、ベッド近づくと、そこに横たわる(不思議と寝ているようには見えない)私の右手を両手で包むように握り、その手をおでこに当てる。

「さくら」

お母さんの涙が私の右手に一粒落ちる。

「早く目を開けなさい」

うん。
ごめんね。お母さん。
私だって目を開けたいんだけどね。
わからないんだ、どうすればいいのか。

幽体離脱、というのを怪しげなテレビで放送しているのを見たことがある。
寝ている人の体から、精神だけがふわっと出て行く感じ。
今も私もきっとそんな感じなのだろう。
だから、体に戻ればいいのかな、って何回か試してみたけれど、いくらやっても見えない壁みたいなものに阻まれて、どうしても体に戻れない。

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