私を見つけて
「ばれる……っていうか。その、ね?」

私はあわてて付け加える。

「ほら、個人情報じゃない? そういうの、大切に取り扱わなくちゃいけないっていうか、さ」

アキはじっと黙り込んだまま、数メートル先の地面から目をそらさない。

「別にアキがどうこうっていうんじゃない、んだけど」

言えば言うほど、私の言葉は白々しくなってしまう。

黙り込むアキの姿を横目で見ながらため息をついた。

「おーい、アキー?」

遠くから、それほど大きくない、だけど確かにアキを探す声が聞こえて、アキは顔を上げた。

「ともだち?」

アキがうん、とうなずいて、声のしたほうへ顔を向けると、私はその友だちがやってくる前に棚の向こうに身を潜めた。

アキ以外の人から見えない以上、その友だちに会うわけにはいかない。

「お前、携帯忘れてたぞ」

自習スペースにやってきたアキの友だちと思わしき人が、携帯電話を差し出すと、アキは「サンキュ」と短く答えてそれを受け取る。

「あれ?」

私がいないことに気がついたアキは、きょろきょろと周りを見回した。

「なに?」

「いや、さっきまでいたんだけど」

「誰が?」

「さくらって子」

どこ行ったんだろ、と不思議そうに言いながら、アキはなおもきょろきょろと私を探した。

「てか、お前、なにしてんの? こんなとこで」

「え? あー、勉強」

「マジで?」

友だちはくすくすと笑う。

「お前、やべーもんな。数Ⅱ」

「さくらって子に教えてもらってたんだけど」

「俺にも紹介しろよー」

ともだちがふざけた調子でそういい、アキはあきれたように笑った。

「うるさいよ、お前」

「てか、いないじゃん。帰っちゃたんじゃないの?」

「いや、でもさっきまでいたんだって」

「幽霊なんじゃない、その子」

私は思わず後ずさる。
一歩、また一歩。

ばれたら。
もしアキに私の正体がばれてしまったら。

貴重な話し相手。

そう思った瞬間、ふっと意識が途絶えた。








< 40 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop