私を見つけて
ふと気がつくとそこは病室だった。

外の明るさから、どうやら次の日になっているようだ。

ベッドの脇にはお姉ちゃんが座っていた。
他には誰の姿も見えない。
大学は休みなのだろうか。
側のチェストの上には、お姉ちゃんの好きなミルクティのペットボトルが置いていった。

病室の中には小さな音で今日も音楽が流れていた。

きっと、お姉ちゃんが私の部屋から持ってきてくれたのだろう。
相変わらず、今の私が聞きたいCDではなかったけれど。

お姉ちゃんの隣の丸椅子にそっと腰掛ける。
お姉ちゃんは気がつかない。
寝ている私の顔を黙ってじっと見つめていた。
見つめたって、何も変わらない妹の姿を、どんな気持ちで見つめているのだろう。

そのとき、お姉ちゃんのバッグから携帯の着信音が聞こえて、お姉ちゃんは少しあわてた様子で立ち上がった。
バッグから取り出した携帯をちらっと見ると、足早に病室を出て行く。
横から覗き込んだ携帯の画面には『お母さん』という文字が表示されていた。

お姉ちゃんが出て行ってしまうと、ふいにアキのことを思い出した。

あの言い訳は、よくなかったかもしれない、と思う。
アキの横顔には、落胆とも怒りともとれる表情が浮かんでいた。
だからと言って、本当のことを言うわけにはいかなかっただけれど。
携帯を忘れた、ということもできたことにいまさらながら気づく。
校則が厳しくて、学校には持っていけないとか。
他に言いようはいくらでもあったというのに。
よりによって、『番号を知られたくないから』だなんて。
いくらなんでも失礼すぎる。

あんなふうになにも言わずに帰ってきてしまったし、アキはもう図書館にはやってこないかもしれない。
せっかくの話し相手だったのに。
そう思うと、少しだけ気持ちが沈んだ。
今日から、また私はひとりぼっちだ。

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