私を見つけて
そっと扉が開いて、お姉ちゃんが携帯電話を手に戻ってきた。
丸椅子に腰掛けると、身を乗り出すようにして私の様子をじっと見つめる。
私の体に変化はなくて、そのせいかお姉ちゃんは深くため息をついた。

お姉ちゃんはそのまま、ベッドに肘をついて組んだ両手の上にあごをのせた。
私は斜め後ろからその細い肩を見ていた。
お姉ちゃんの横顔はとてもきれいだ。

中学生の頃、私のクラスで友だちを漢字一文字で表すとどんな漢字か、言い合うのが流行った。
人によって『明』であったり『笑』であったり『真』であったり『軟』であったりしたのだけれど、私の場合は『柔』という意見が多かった。

『さくらって、人当たりが柔らかいし、いつもふわふわって優しいイメージだから』
そう言われて嬉しかった私は、帰るなりお姉ちゃんに同じ質問をした。

その頃、文化祭で公演する演劇部の脚本を書いていたお姉ちゃんは、ノートから少し顔を上げると目をくるりと動かした。

『そうねぇ。さくらは……花、かな』

なにそれ、と私は思った。
花だなんて。さくらだからって花だなんてそのまんまじゃない。
もっと真剣に考えてくれたっていいのに。

『私は?』

お姉ちゃんに質問を返された私は『涼』と答えた。
なんでも涼しい顔でしてしてまうお姉ちゃん。
いつもぴんと伸びた背筋やきゅっとしばったきれいな長い髪の毛。
まるでお姉ちゃんの周りだけ温度が低いみたいな涼やかなおねえちゃんは、
とてもきれいでうらやましいけれど。
お姉ちゃんは時にとても冷たい。

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