私を見つけて
ふわっと目の前が白くなったと思ったら、図書館の外へ出ていた。
ちょうどさっきまで見ていた景色の中に私はいた。
踏みしめた時に感じる雪の感触も、頬に落ちて溶けるはずの冷たさの感覚もなかったけれど、一面真っ白な雪景色は思いのほかきれいで、すこしだけ気持ちが軽くなる。

そうだ、仕方ないんだ。
もともと、話せる人がいたことがラッキーだったのだ。
私、幽霊なんだし。
誰にも気づかれないのも、誰とも話せないのも当たり前なのだ。

あのままアキと話していたら、いつかは幽霊だってばれてしまっていたかもしれない。
いくつもの嘘をついてありそうな話をしたって、不自然な点は数え切れないほどあるんだ。
ぼろが出て、怖がりなアキをびっくりさせてしまう前に。

こうなってよかったのだ。

空から降る雪を見上げて私は息を吐く。
本当なら、白く吐き出されるはずの息だけど、そこには何もなくて。

それでもあきらめきれなくて、私は何度も同じことを繰り返した。
白い息を見れば、寒いなと感じることもできるのに。
寒さも感じない私にとっては、そういうものを見て感じることしかできないのに。

背中のほうから立て付けの悪い窓ガラスを空ける鈍い音がし、続いて「さくら!」とアキの声が聞こえた。

振り向いた私の目に、窓を空けて手を振るアキの姿が飛び込んでくる。

アキが白い息を吐く。

「さくら! なにしてんの? そんなとこで」

いつも通りの笑顔で、あきれたように笑う。

「風邪ひくぞ」

はいはい、と面倒くさそうな声を私は出した。

本当は泣きたいほど嬉しかったけれど。
幽霊だから、涙なんて出ない。


< 45 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop