私を見つけて
「昨日のことだけど」

自習スペースに戻った私が言うと、アキは「昨日?」と聞き返した。

「あー、なんか急用でもできた?」

アキはリュックサックからごそごそとノートと取り出しながら訊ねる。

「うん、そう。ごめん」

本当は謝りたかったのはそっちじゃないのだけれど、いちいち蒸し返す気にもなれずあいまいにうなづく。
携帯電話のこと、アキが気にしていないのならそれでいい。

「急に消えたからびびった」

どう言い訳をしようかと思って考え込んでいると、アキはノートを広げて「これ、やってきたんだけど合ってる?」と私に差し出した。

「うん、合ってる」

勉強を教えるようになって、まだ五日目だけど、アキの正解率はぐっと上がってきていた。
何度もうなづきながらそう言うと、アキが嬉しそうに笑うのが気配でわかった。

「数学ってさ、できるようになると案外おもしろいんだな」

「そう?」

「なんかパズルみたい」

「あ、ちょっとわかるかも」

「答えがぴったりはまったとき、気持ちいい」

アキの言葉に私は思わず微笑んだ。
私も全く同じ事を考えていたから。
それに、あれだけ数学に苦戦していたアキがそんなふうに思ってくれたことが、なんだかとても嬉しくて。


< 46 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop