私を見つけて
病室に戻ると、相変わらず寝たままの私の姿がある。
事故に遭って、明日で三週間が経とうとしていた。
丸椅子にはお母さんが座っていて、私の手をさすってくれている。

「お母さん」

お母さんの斜め向かいになるように、ベッドに腰かけた。
お母さんは、寝ている私の顔を見ていて、こちらの私には気がつかない。

白髪が増えたし、顔にもはりがない。
日に日に老け込んでいくように見える。
もともと、いつもきれいにしている人だったから尚更だ。
子どもの頃、いつもきれいにしているお母さんが私の自慢だった。
背がすらりと高くて細身だから、年齢よりも若く見えたし、どのお母さんよりもきれいだった。

『さくらのお母さん、美人』

そう言われるたびに、得意気な顔をしていたことを思い出す。

だけど、いつからか、喧嘩ばかりするようになった。
思春期、といえばそれまでからもしれない。
子どもの頃は、お母さんは大人で悪いところなんてなにもないと思っていた。
だけど、お母さんにも悪いところがあると気づいたなのだと思う。
気分屋なところとか、外面がいいところだとか、怒るとヒステリックになるところとか。

同じ女性として、見る目が厳しいのかもしれないけれど、たまにお母さんみたいな大人になりたくないとさえ思うときもある。
決して嫌いなわけじゃないし、尊敬していないわけではないのだけれど。
お母さんみたいな大人にはなりたくないとたまに思う私は、薄情な娘なのかもしれない。
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