私を見つけて
「意識が戻るのは今日かもしれないし、明日かもしれないし、一週間後なのか一ヶ月後なのか、私たちにもわからないんです」

幽霊になった次の日。
ICUの隣にある、小さな会議室みたいな殺風景な部屋で、医者がそう説明するのも私はちゃんと聞いていた。
お父さん、お母さん。その向かいに医者。
誰も気づいていないけれど、部屋のすみでちゃんと聞いていた。

私、ここにいるよ。
お母さんの背中に声をかけてみる。
先生の真ん前に立って、手を振ってみる。
仕事帰りにタオルとかを持って来てくれるお父さんにも、私の好きなアーティストのアルバムを持ってきてくれたお姉ちゃんにも。
私、ここにいるよって。
でも、その声は誰にも届かなくて、みんなは私の目の前を黙って通り過ぎて行く。
みんな当たり前だけど、とても深刻な顔をして。
悪気がないとわかっていても、存在を無視され続けるというのは、案外きつい。

「わからないって……じゃあこのままずっと意識が戻らないということもあるんですか!」

お母さんが叫ぶように医者に詰め寄る。
まるで先生が責められているみたい。先生が悪いわけでもないのに。

「脳のことはまだわかっていないことが多いんです。なにがきっかけで意識が戻るかわかりません。手や足をさすったり、ご家族や友だちの声、好きだった歌をたくさん聞かせて刺激を与えてください」

先生がそう言ったから、お母さんはそれからこうして私の手や足をさすったり話しかけてきたりする。
肉体の方の私はそれに対しては無反応。
生霊の私にもその感覚は伝わってこない。
感覚だけじゃない。
暑いとか寒いとか、おなかがすいたとか、消毒液のにおいとか、そんなのもなにも感じない。
たまにふと意識が途絶える瞬間があって、そのときは肉体のほうの私がちょっと危ないときみたい。
しばらくするとまた病室の丸椅子に座っていて、横たわる自分をぼんやりと眺めている、そんな感じ。
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