私を見つけて
事故から十日が過ぎても、わたしの肉体は目を覚まさない。
ピッピッピッというモニターの音がなければ、私はまるで死人のようだ。
人工呼吸器はつけていないから、自発呼吸はできているみたい。
私は今日も病室の丸椅子に座って、そんな自分を見守り続けていた。

今日は、クラスの友だちが三人、お見舞いに来てくれた。
学校帰りなのだろう。
みんな、私と同じ制服姿だ。
真央(まお)と優花(ゆうか)と葵(あおい)ちゃん。みんなすすり泣いてる。
私としては、こんな腫れた顔を見られたくないのだけど、仕方ない。

「さくら……真央だよ」

一番、仲のいい真央がそう言って私の右手をぎゅっと握ってくれている。
真央の目からは大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちる。
あーあ、アイラインがくずれちゃうよ、なんて言ってみた。
聞こえるわけないんだけど。

高校二年生で初めて同じクラスになった真央は、恋愛体質というか、常に誰かに恋をして、恋することが楽しくてたまらない性格で、どちらかといえば恋愛に対してドライな私はいつもさめた目で冷やかしているけど、それでいて馬が合うというか、一緒にいてとても楽な相手だったりもする。

優花も泣いてる。
成績優秀で、医学部を目指してる優花。いつもクールだから、泣くところなんて初めて見た。
美人な子は泣いても美人なんてずるいな。

葵ちゃんは、病室に入った時から泣いてた。
いや、たぶん入る前から泣いていたんだな。
もしかしたら、学校から出るくらいから泣いていたかもしれない。

真央、先輩の追っかけがあっただろうに。
優花は塾の日だし。
葵ちゃんはバイトの日。

みんな、用事があるのに来てくれたんだなぁ。
ありがとうって伝えたいけど。
伝えられない。

私の肉体は一体どうなってしまうのだろう。
このままずっと眠ったままなのかな。
そして、私はこんなふうにずっとこのまま、ぼんやりと一人で。
一人きりで。
誰にも気付かれずに。
一人で……。

「……いやだ」

ずっとこのままなんて。
誰からも無視され続けて、誰からも気付かれずにただここにいるなんて。
そんなの、死んだほうがましだ。

「いやだ!」

思わず立ち上がって叫んでいた。
意識が遠のいていく感じがした。
このまま、死ぬのかもしれない。
そう思ったとき、最初に感じたのは恐怖でも寂しさでもなく、安堵の気持ちだった。

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