死刑囚「久山郁斗」の啓示
プロローグ
不可解な通報だった。
殺人事件なのは明らか。
通報者の言っていることも至極全う。
しかし、決定的にオカしい。
「部屋で嫁が死んでいる! お腹から血を流して、首も絞められているみたいだ!」
この台詞を……
同時刻。約一キロ離れた場所にいる、二人の通報者たちが口を揃えて言うのだ。
イタズラとは思えなかった。
息づかいと声は切羽詰まっている。
「今、署員をそちらに向かわせます。何か、物音や変わったことなどはありませんか? もしあるようであれば危険ですので……」
通報者たちが悲鳴を上げた。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
繰り返し、通信指令係が声をかける。
「ヤバい、ヤバい。なんだよこれ!」
一人の通報者の金切り声。
ハァハァと息が吐かれ、布切れの音が繰り返される。
「どうしました?」
「久山郁斗……」
通報者が答えた。
指令係の息を吸い込む音がノイズとなって差し込まれる。
「紙が床に落ちてて、拾ったら……ひ、久山郁斗って文字がある!」
女のように甲高くなった男性の絶叫に、警察官らの顔は真っ青になって痩けた。