百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


「遊馬は事務所に来る途中の道路にいた狸を追いかけて行っちゃったの。」


私の言葉を聞いたとたん、芝狸は、ぴくり、と尻尾を振ってこちらを見た。


『“狸”じゃと?』


低くなったその声に、私は少し動揺して答える。


「うん。

…私、てっきり芝狸が歩いているのかと思ったんだけど……。」


“狐と違って、社長は四足歩行じゃない。”


遊馬のセリフが頭に蘇る。


確かに、目の前の芝狸は、二足歩行だ。

じゃあ、あの狸は?

本物の狸なわけないし…。


今考えると、他の街を歩く人たちは、気にとめる様子が無かった。

狸が歩いてたら、普通は大騒ぎになるよね?


もしかして、私と遊馬にしか見えてなかったの?


……だとしたら、あの狸は、“妖”……?


鬼火銃の持ち主にしか見えないってことは、そうとしか考えられない。
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