百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
声のする方を見ると、頬にかすり傷を負った雅さんが、真剣な瞳で私を見つめている。
「あんたと私は敵同士じゃない。
……遥の事でも、私はあんたに冷たい態度をとってたのに…命をかけて庇うなんて、どういうつもり…?」
理解出来ない、という様子の雅さんに
私は雅さんの整った顔を見つめながら、
ゆっくりと口を開いた。
「……自分でも…よくわからないけど…助けたいと思ったの…。
……たとえそれが敵だったとしても。」
「!」
私の言葉に、雅さんは大きく目を見開いて、小さく息を吸った。
沈黙が辺りを包む。
私は、雅さんに向かって微笑んだ。
「…助けなきゃ、って思うよりも…体が勝手に動いてたの…。
………無事で……よかったです。」
気の利いた言葉が言えず、うまく気持ちがまとめられない。
でも、損得とか、今までの関係とか。
あの時は考える余裕なんてなかった。
…ただ……私が助けられるかもしれないって
そう思ったんだ。
……結局、芝狸に助けてもらっちゃったんだけど……。
すると雅さんは、ふぃ、と顔を背けて、私に背を向け歩き出す。
「……あんたって、変な女だね。
お人好しで死んだら、意味ないでしょ…。」
雅さんはそう言うと、ぴたり、と足を止めた。
そして、背中を向けたまま、小さく言った。
「………ありがとう。
…あんたが死ななくて、よかった…。」
!
そう言い残すと、雅さんはそのまま振り返ることなく、森の奥へと消えていった。