百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


すると、黒スーツの男は、冷たい笑みを浮かべて、静かに言い放った。


「…心配しなくても、もう殺すような失態は犯しませんよ。」





俺は、殴りたい衝動を必死に抑え、ぎゅっ、と拳を握り締める。


頭の中には、“あいつ”の姿が浮かんだ。

紺の犠牲になった、“あいつ”が。

あの琥珀色の髪の毛を、忘れたことなんて、一日もない。


…初めて、女を綺麗だと思った。


俺は、行き場のない気持ちが溢れ、ダン!と壁を殴ると

くるりと背を向けて、その場を去った。


………くそ。


また、紺の思惑通りかよ。


雅まで、紺の犠牲にさせるわけにはいかない。


俺は、研究室に向かって、足を踏み出した。


すると、そこに、廊下の向こうから
見覚えのある青年が歩いてくるのが見えた。


首元には、金色の鬼火銃が光っている。


……あいつ…

…狸のおっさんのトコの、相楽ってやつだよな。


コツコツ、と歩く音が二人しかいない廊下に響く。

俺は、すれ違いざまに、声をかけた。


「……お前、いつまでもこんなトコにいるんじゃねぇぞ。」


< 187 / 512 >

この作品をシェア

pagetop