百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
すると、黒スーツの男は、冷たい笑みを浮かべて、静かに言い放った。
「…心配しなくても、もう殺すような失態は犯しませんよ。」
!
俺は、殴りたい衝動を必死に抑え、ぎゅっ、と拳を握り締める。
頭の中には、“あいつ”の姿が浮かんだ。
紺の犠牲になった、“あいつ”が。
あの琥珀色の髪の毛を、忘れたことなんて、一日もない。
…初めて、女を綺麗だと思った。
俺は、行き場のない気持ちが溢れ、ダン!と壁を殴ると
くるりと背を向けて、その場を去った。
………くそ。
また、紺の思惑通りかよ。
雅まで、紺の犠牲にさせるわけにはいかない。
俺は、研究室に向かって、足を踏み出した。
すると、そこに、廊下の向こうから
見覚えのある青年が歩いてくるのが見えた。
首元には、金色の鬼火銃が光っている。
……あいつ…
…狸のおっさんのトコの、相楽ってやつだよな。
コツコツ、と歩く音が二人しかいない廊下に響く。
俺は、すれ違いざまに、声をかけた。
「……お前、いつまでもこんなトコにいるんじゃねぇぞ。」