百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
すると、茶髪の青年は、ピタリ、と足を止めた。
俺は、振り返ることない青年の後ろ姿を
ちらり、と見る。
奴は、ぴくりとも動かず
ただ、俺の言葉を聞いていた。
………。
数秒沈黙が続き、俺はゆっくり口を開いた。
「……操られてる以上、声は出せねぇか。
…上手く戻れるといいな。」
俺の言葉に、青年は反応する様子もなく
そのまま、すっ、と歩き出して、廊下の角を曲がっていった。
俺は、横目で彼の姿が消えるまで見つめた。
……狐の面……か。
その時、俺の頭の中に、泣いている詠の姿が浮かんだ。
あいつ……あの相楽って奴のことで責任感じて、すげー落ち込んでたよな。
……少し見ただけでわかるぐらい。
俺は、再び研究室に向かって足を踏み出しながら、ふぅ、と小さく息をはいた。
詠は……いつも笑ってねぇとな。
俺は、そう心の中で呟くと、コツコツと静かな廊下を進んで行ったのだった。
《遥side終》