百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜

…?


「なに?周くん。」


周くんは、私を見つめながら言う。


「今日は…有給休暇みたいなものだから。

いつもとは切り替えて、楽しんでね。」


…え?


きょとん、として周くんを見つめ返すと、周くんは、ふっ、と笑って言った。


「相楽くんがいなくなってから、佐伯さん、全然笑ってなかったからさ。」


はっ、とした。


そうだったんだ…

全然気づかなかった。


周くんは、前を向いて、続ける。


「相楽くんのことは佐伯さんのせいじゃないから。

……今日は、そのことは気にしないで、
たくさん笑ってくれると嬉しいな。」





とくん、と、胸が鳴った。


……もしかして周くんは、調査とは別に

落ち込んでた私を励ますために、ここに
連れてきてくれたの?


周くんの気づかいが心に染みる。


………やっぱり、好きだな。


私は、こくん、と頷いて答えた。


「ありがとう。周くんも一緒にたくさん
笑ってね。」


私の言葉に、周くんは、優しく微笑んで頷いた。


……今日は、運勢見てくるの忘れちゃった。


だけど、きっといい日になる。


私はそう心の中で呟いて、ショッピング
センターへと入って行ったのだった。

< 208 / 512 >

この作品をシェア

pagetop