百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
俺は、半分呆れながら、半分嬉しい
自分でも訳わからない感情を必死で抑えた。
……本当、変な女。
俺は、むくり、と起き上がって、凛を見下ろす。
凛は、にこっと笑って俺を見上げている。
………。
俺は、無言で凛の顔の横に手をついた。
ギシ…、とボロい床がきしむ。
半分覆い被さるような姿勢になって、俺は凛へと距離を縮めていく。
もう少しで唇が触れる………
と、次の瞬間
凛が腕時計を見て声を上げた。
「!もう七時?!やば!
周のご飯が待ってる!」
凛は、俺をぐい、と押し上げて、するり、と這い出る。
……ちっ。
無自覚に上手くかわして行きやがる。
俺は、せかせかと荷物をまとめて出て行く凛を玄関まで見送る。
「…会えなくても、また電話で話ぐらいなら聞いてやるよ。
ま、クリスマスの日みたいに長時間はごめんだけどな。」
すると凛は、ふっ、と微笑んで頷いた。
そして、見送りに来た俺の腕を、ぐっ!と引っ張って、軽く頬にキスをした。
!
「じゃあね!遥、好きだよ!」
……!
…っ。
ひらひら、と手を振って階段を下りていく凛を見つめる。
……なんで、こう……
あいつは不意打ちが上手いんだよ。
……心臓に悪いっつーの。
俺はその時、部屋の窓から俺たちの様子を監視する“小さなカラス”の存在に、全く気がつかなかったんだ。