百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


俺は、言葉を失った。

事情を話したら、凛は絶対引き下がらない。

だから、最後はこれ以上ないぐらい嫌われて終わらせたかった。


………なのに

…………。


「“凛”、出てけ。

今日、最後の実験なんだろ。早く行け。」


凛の言葉には答えずに、俺は沈黙の後そう言った。

凛は、俺のシャツを強く掴んで離そうとしない。


「まだ話は終わってないよ!

遥!こっち向いてよ!」


俺は、騒ぐ凛を無理やり玄関まで連れて行き

ドッ!と外に突き飛ばした。


「っ!」


凛は、小さく声を出して廊下に倒れる。

俺は、すぐに玄関の扉を閉めて鍵をかけた。

これ以上ないほど酷いことをした自分を、俺は殴りたくてしょうがなかった。

ドンドン!と扉をたたく音がする。


「開けて、遥!遥!!

ねぇ、顔を見せて!お願い……!」


凛の泣き声が、扉越しに俺の心を締め付けた


……ごめん。

ごめん、凛。


好きだよ。

誰よりも、大切な人。


「………早く行け。バカ。」


俺は、それだけ言って、玄関から離れた。

凛は、それからもずっと俺に声をかけ続けたけど

俺は一言も答えることはしなかった。



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