百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜

言葉が出ない私に、周くんは目を逸らさずに言った。


「姉さんと九条の思い出を見て、すごく辛そうな顔してた。

…姉さんを好きだった頃の九条を見て、傷ついた顔をしてた。」


………

……嘘………。


……どうして………?


私は、別にショックを受ける立場じゃないのに…。


…ただ、見たことのない昔の遥を見て

私って、遥のこと全然知らないんだなって思ったら

なんか、胸がもやもやして………


「…っ。」


私は必死で動揺を抑え、周くんに向かって口を開こうとした

その時だった。


ビュゥゥウ!


夏なのに冷たい風が、私たちの間を吹き抜けた。





驚いて公園を見ると、私たちの目の前に見慣れた黒スーツの男が現れた。


「…ここにいらっしゃいましたか

佐伯 詠さん………。」





…八雲……!


ぱっ、と、周くんと繋いでいた手が離れる。


…どうしてここに………!


私と周くんが、とっさに鬼火銃のネックレスを外そうとした瞬間

八雲が、クイ、と新しいメガネを持ち上げて口を開いた。


「攻撃はやめてください。今日は戦いに来たのではないんです。

…もう、竜ノ神の件は決着がつきましたからね。」


……!


私たちは、ぴたり、と動きを止める。


…どういうこと…?


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