百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


紺は、私に向かって口を開いた。


『せっかくの“餌”をやすやすと持って
行かれるわけにはいきませんからね。

……芝だけではないようですし。』


……え?


その時

静かな世界に、私の名を呼ぶ、凛とした声が響いた。


「詠ちゃん!」


「!」


はっ、として声の方を見ると

雲海の向こうから芝狸を抱いた周くんが
走ってくるのが見えた。

その隣には、遊馬と雅もいる。


……!

みんな……!


周くんたちの顔を見た瞬間

体に入っていた力が、ふっ、と抜けた。

危機的状況なのは変わらないが、安心感が心を満たす。

私と紺の方へと走ってきた周くん達は
数メートル離れた所で足を止めた。

周くんは私の顔を見た瞬間、少しほっ、としたような表情を浮かべて

そして、キッ!と紺を睨みながら口を開いた。


「紺…!八雲から全て聞いた。

…詠ちゃんを返せ……!」


…!


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