百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


…振られるって分かってての、あえての“慰め役”か。


僕は苦笑して、はぁ、と息を吐く。


“今だけ、引き止めない”…………。


詠ちゃんが、消えた遥を探すために八雲の元へと向かおうとした時

僕は全力で彼女を引き止めた。


…九条の元になんて、行かせたくなかった。


あの二人を、会わせたくなかった。


…だけど、妖界での二人を見ていて、痛いほどわかってしまった。

…あの二人の間に、入り込む隙間なんてないってこと。


僕は、相楽くんに向かって苦笑しながら口を開く。


「…僕が、もっと早く気持ちを伝えてれば…

…何か変わったのかな…。」


相楽くんが、驚いたように目を見開いた。

そして、優しく微笑んで僕の肩を抱く。


「周は九条に負けないぐらい、いい男だよ。俺が、今後を保障する!

今日はとことん落ち込んで俺に甘えとけ。」


僕は、相楽くんの言葉に、つい、ぷはっ!と吹き出した。

相楽くんは、にっ、と笑って僕を見ている。


「…ありがとう。」


僕が、そう呟くと、相楽くんは背中をバシバシ叩いて笑った。


「かっこ良かったぞ、周!!」


…慰めの言葉が直球すぎるよ。


ふふ、と笑って僕に、相楽くんは満足げに笑い返した。

僕はその時、心から

詠ちゃんと“アイツ”が上手くいけばいいと思えたんだ。


…僕は、いつでも

詠ちゃんの幸せを願ってるよ。


「…帰ろうか。」


僕の言葉に、相楽くんが続けた。


「明日から事務所の掃除でも始めるか?周」


…!


相楽くんが、にっ!と笑う。

僕は、その言葉に笑顔を返し、相楽くんに向かって頷いたのだった。



《周side終》

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