百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
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はぁ…はぁ…!
息を上げておんぼろアパートへと走る。
ギシギシと鳴る階段を登り、二階の角部屋へと向かった。
部屋の前に立つと、緊張感が高まる。
…遥………!
私は、恐る恐るドアノブに手をかけた。
ガチャン!
……!
部屋の鍵は、閉じられたままだった。
……帰ってる…わけ……
ないよね…………。
私は、気分がしゅうん、としぼんだ。
……周くんのあの言葉は、遥を好きでいてもいいよって意味だったのかな……?
……それを……私は………
遥が帰ってきたと勘違いして走ってここまできた。
……本当……バカだなぁ、私………。
私は、すっ、と遥の部屋から離れる。
そして、自分の部屋の鍵を開けると、中に入って、バタン!と扉を閉めた。
しぃん…、とした部屋に一人で入っていく。
………遥とまた会えるなんて
そんな夢見たいな話、ありえないんだ。
今まで抑え続けていた想いが涙となって溢れ出した。
…もう、心の中で整理をつけたはずだった。
遥の記憶は、心の奥底にしまっておいたはずだった。
………でも…。
頬を濡らした涙は、ぽたり、ぽたり、と落ちていく。
「………会いたいよ………遥………。」