百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


「……は………る…………」


そこには、月の光に照らされる綺麗な藍色の髪の毛の青年の姿。

青年は、私を見つめて優しい笑みを浮かべて続けた。


「……なんてな。」


どきん!


彼の顔を見た瞬間

私の目に涙が溢れた。

次から次へと、こぼれ落ちる。


…私の瞳には、もう目の前の“彼”しか映らない。

この世界に、二人だけがいるような気がした。


遥は、窓枠に腰掛けると、ふっ、と笑って私に言った。


「………ほんっと、泣き虫だな。

ん、胸でも貸そうか?」


遥は、そう言って腕を広げる。


……っ!


私は、無意識に遥の胸に飛び込んでいた。

トッ!と、確かな感触が体を包む。

遥が、ぐらり、として、苦笑しながら口を開いた。


「…っと…!危ねぇ…っ!

…俺はもう空飛べねぇんだから、そう飛びつくなって。」


そう言いながら私を抱きしめる遥に、私は涙を流しながら言った。


「…本当…?…本当に、本物の遥?

ゆ……夢じゃないよね………!」



< 494 / 512 >

この作品をシェア

pagetop