百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜


その時、私の元に周くんが駆け寄った。



「佐伯さん!怪我はない?!」



真剣な表情で私を覗き込む周くんに、私は、こくん、と頷いて、妖を見ながら尋ねる。



「……どうして、あの妖は苦しそうなの?

さっきまでの浄化とは、全然違うみたいだけど…。」



すると、周くんが険しい表情のまま答えた。



「九条 遥の使ったあの黒い結晶は、妖を浄化する時に出る“竜ノ神をおびき寄せる力”を増加させるものなんだ。

…だけどそのかわり、結晶を埋め込まれた妖は、鬼火銃で撃たれると死んでしまう。」







今…なんて……?



浄化の力の犠牲に、妖の命を奪ったの?


だから、あんなに苦しそうに……。



その時、ふと事務所での芝狸の言葉が頭に浮かぶ。



『あいつは宝石を得るという目的のためなら手段を選ばないような非道な奴じゃ!』



芝狸は葛ノ葉 紺のことをそう言ってたけど

カンパニーの奴らは、みんなそんな連中なの…?


みんな、竜ノ神の力を手に入れるためなら、どんな酷いことでもやるわけ?



その時、私の目の前に立っていた遥が、くるり、とこちらを向いた。



……!



目が合って、一瞬、時が止まった気がした。


遥の瞳は、なぜかとても澄んでいて、悲しそうな色を宿している。



………なんで……?



どうして自分でやっておきながら、そんな悲しそうな顔をするの…?


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