百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
その時、周くんがすっ、と前に歩き出した。
え?!
このまま行くの?!
「周くん!じ…自分で歩けるよ!」
私が慌ててそう言うと、周くんは苦笑して優しく言った。
「気を使わなくていいよ。…妖を浄化するのは体力を使うんだ。
足、震えてるけど、気づいてない?」
はっ、として自分の足を見ると、確かにガクガクしている。
無意識のうちに力が入っていたのかな…?
「事務所までは僕が連れて行ってあげるから安心して体預けといて。」
周くんが、甘い声で囁いた。
こ…こんな王子様ボイスを近くで聞けるなんて、夢みたい。
私は、赤くなった顔を隠すように体を縮こませる。
そして、周くんにつかまったまま、その場を離れた。
…遥がどんな表情をしていたのか。
周くんの向こうにいた彼を見ることはできないままだった。