百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜
────どくん。
心臓が鈍く音を立てた。
そう言った遥の顔は、真剣そのもので。
…迷いなど、一切なくて。
強い意志だけがそこにあるような瞳をしていた。
沈黙が二人を包み、薄暗い月の光に照らされる。
すると、その沈黙を破るように、遥が私に向かって口を開いた。
「……ま、そういうことだから。お前もせいぜい頑張れよ。
…浄化も、周との恋も。」
っ?!
はぁ?!
遥は、ふっ、と笑うと、ガラリと窓を開けて自分の部屋へと戻っていく。
一言余計だよっ…!!
別に周くんとのことなんて、遥に関係ないじゃんか!
ギロ、と、遥の方を見たが、遥はそのまま、ぴしゃり、と窓を閉めてしまった。
……もー…。
遥とだけはあんまり関わらないようにしようと思ってたのに。
お互い、敵対組織にいるわけだし…。
……周くんに恋をしていることは知られたくなかった!!
私は、はぁ、と息を吐いて、星の輝く夜空を見上げた。
ふと、頭の中に妖を浄化した現場で見た、暗めの金髪の人が思い浮かぶ。
……遥の彼女なのかな…?
…聞きそびれた。
でも、名前で呼び合う仲だし、組織も一緒みたいだし、相当仲良いよね。
まぁ、私と遥も名前で呼び合う仲になったんだけど…。
…この時、私は想像もしていませんでした。
まさか、この妖バイトが、私の運命をガラリと変えてしまったということに。
…私は気づいていませんでした。
“運命の出会いがあります”
そう言っていたテレビの占いの言葉なんて、頭の隅に追いやってしまっていたことも…。
*第1章・完*