居場所をください。



「貴也にも反抗期ってあった?」


「あったあった。親に反抗して、

親の決めたレールの上なんか歩きたくないって

突然芸能界引退する!とか言い出したりな。」


「どうしたの?説得したの?」


「いや、見放した。

そんな中途半端なやつはいらないって

社長は突き放した。

結局次の日には頭下げに来たけどな。

あいつもわかったんじゃねーの。

そんな甘い世界じゃないって。

それまでは少しえらそうな態度だった貴也も

すげー変わったんだよ。

あいつ"俺にはここしかないですから。"

って寂しそうに言ってたしな。」


「貴也が?なんで?」


「貴也はずっと芸能人扱いされるのを嫌ってたからな。

学校いってもどこにいっても

俳優松野貴也として扱われるだろ。

だから"俺にはここしかない"なんだよ。

ここにいる俺じゃなきゃ価値がないって。

まともな友達もほとんどいなかったしな。」


「そっか…。」


やっぱり貴也も居場所をさがした迷子だったんだな。


「貴也にとって、ここは最大の居場所なんだね。」


「今は美鈴の部屋もな。

美鈴が必ず帰ってくるあの部屋も

貴也にとっては大事な居場所なんだろ。」


「だから毎日来るのか。」


「さみしがり屋だからな、あいつ。」


「そういう気持ちはわかるけどね。

誰かが帰ってくる安心感。

私も長曽我部さんちにいるとき思った。」


たとえ部屋が真っ暗でも

ここに誰かが帰ってくるって

そう思えるだけで幸せなんだ。


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