居場所をください。
「……………俺さー、
前まで美鈴のこと嫌いだったんだよね。」
「えぇ!前っていつ?」
「まだ会ったこともなかった頃。」
「なんででしょう…」
「父さんの話が美鈴のことばっかだったから。」
「……なにそれ。ヤキモチー?」
「口を開けば美鈴。
もう聞き飽きたっつーの。
初めて会ったとき、お前のこと知りたくて
家まで押し掛けたんだよ。」
「あー、そういうこと。」
「父さんが気に入って推しまくってる女が
どれだけいい女なのか。」
「いい女でしょ。」
「結果は妹だったってことですっきりしたわ。」
「いや、いい女でしょ。」
「お前の見た目とか頑張りとか歌は認める。
料理もうまいしな。
いい女ではねーだろ。
さっき俺のこと、うんことか言ってたし?
うるせーし、ガキっぽいし。
どうにかなんねーの?」
「それはいちいち弘希が
怒らせるようなことするからでしょ。
クッキー勝手に食べるし。
でも、私も前まではもっと静かだったの。
生意気なくそ女ではあったけど
こんなに明るくはなかった。
笑うなんてありえなかった。
長曽我部さんに会って、この世界で生き始めて
やっと人間らしくなってきたの。
なんていうか……やっと子供になれた気がする。
だから私はもう少し子供でいるつもり。
もう前の私には戻りたくないの。」
周りの目を気にして
将来の夢とか諦めていたあの頃には。