居場所をください。



「……受験生かぁ。」


「え、まぁ。

美鈴はいいよなー、そういうのなくて。

俺なんか頭悪いから

一高で目の敵にされてるわ。」


「はは、それは言い過ぎでしょ。」


「まぁそうだけど。」


「いいな、受験生か。

最近そういうのが羨ましくなるよ。

まだ子供で、自由で。

私が選んで歌手やってるけど

自由なんてなくてさ

テレビの中で自分を偽って

どこか出掛けても結局見られて

写真とられて、話しかけられて

あー私はもう普通に暮らすことはできないのかって

ちょっと今の自分が嫌になってくる。

かといってやめたところで

結局五十嵐美鈴はやめることができなくて……


芸能界って憧れる人多いけど

一般人を犠牲にするのは

なかなか辛いことなんだなって思うんだよね。

休みの日にも声かけられるのは正直辛い。


毎日毎日自分を偽ってる。」


こうやって、偽ることに抵抗を感じてる間はまだいい。

これが当たり前になって、偽ることに

なんの抵抗も感じなくなったら

自分がなくなってしまったら

私はもう本当に終わりだ。人として。



< 2,307 / 4,523 >

この作品をシェア

pagetop