居場所をください。



「…………どうしてそう思う?」


ずっと黙って話を聞いていた松野貴也は

うつ向いたまま、そう聞き返した。


「あいつ、ずっと笑ってるから。」


そんな松野貴也に、

俺は前を向いたまままっすぐ答えた。


「瑠樹が言ってた。

前よりはかなり表情豊かになったけど

あいつには喜怒哀楽の哀がないって。

無理してるとさ思わねーけど

あいつって、仕事以外で泣くことあんのかな。」


「…………あるよ。」


俺が外を見ながらボーッと言うと

松野貴也は早めにそう答えた。


「やっぱ見たことあるんだ?泣いてるとこ。」


「2回だけな。」


ふーん………


「…………やっぱ、彼氏が一番ってことか。」


俺のはいる隙間はどこにも…


「いや、一番は長曽我部さんだよ。」


「……それもそうだな。」


気持ち悪いぐらい、愛し合ってるもんな。

気持ち悪いぐらいっていうか

気持ち悪いけど。


「…………お前さ、いとこなんだろ?

美鈴のことよくみてんだな。」


松野貴也がそういうから

俺は瞬きすらする暇なくこいつを見ると

目を細め、肘のついた手に顎をのせ

俺を見ていた。


「…………どういう意味」


「俺さ、ガキの頃から役者してるから

ずっと人の表情ばかり気にして生きてきたんだよ。

片想いする人の表情、とか。」


…………こいつ…知ってたのかよ。



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