居場所をください。



「……今日、前通ってた高校の

文化祭に行ってきたんです。

私の一番の友達のクラスは

フラッシュモブでオーケストラ擬きをやって

最初、私の友達のバイオリンのソロから

始まったんですけど

そのソロもすごく上手で

だけど、だんだん加わる音に

すごく感動しました。

もともと演奏が上手なのもあったけど

みんなでなにかをするって、

すごいパワー持ってるんだなって

改めて思いましたよ。」


私はずっとソロだから……

この前、沖野さんと歌ったとき

きれいに音が重なったときも

すごく気持ちよかったから……


ひとりでは味わえない、あの感動は

なかなか忘れられない。


「まぁ、合奏には合奏の

いいところがあるからな。

でも五十嵐もバンドがあるんだから

別に一人なわけじゃないだろ。

ソロではあるけど。

あとはどれだけいいメロディを

作れるか、じゃねーの?」


どれだけいいメロディ…か。


「逆に言えば、もしそれを見つけたら

五十嵐は普通の音楽じゃ

楽しめなくなるだろうけどな。

完璧を見つけたら、お前はもう

歌わなくなると思う。俺は。

それっきりで歌をやめるならいいけど

お前がこの世界で生きていくなら

完璧なメロディなんか知らないまま

幕を閉じた方が楽しいと俺は思う。」


……そっか。

天才は天才なりの悩みもあるって言うし

私は未熟者のまま、さ迷ってる方が

いい歌が歌えるのかもしれない。


「休憩終了。

ほらよ、腹に乗せて声出せ。」


「……なんか本の量増えてません?」




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