居場所をください。



「…え、ドーム?」


「そ。」


長曽我部さんはそういって、

裏の駐車場に車を止めて

すぐに私のところのドアを開けた。


「美鈴ならわかるだろ。

ここで今、なにをやってるのか。

さっさと降りろ。」


佐々木さんが急いで降りたから

私も急いで車を降りて

すぐに裏口からドームの中へと入った。


外まで漏れる大きな音は

なぜかここには聴こえない。

静まり返る中、

私は最後のメイク直しとして

そのまま鏡の前へと座らされた。


「ん、水。」


長曽我部さんから水を受け取って

一口飲めば


「この色ね。」


次は佐々木さんから

口紅を渡された。


「……ちょ、待ってよ?

なんで私が?」


「お前は歌手なんだから

当然、歌を歌いに来たんだよ。

時間がないんだからさっさとする。」


嘘でしょ?嘘でしょ?

そんなことを考えてる暇もないくらい

私の隣には大好きな人が来て

私の疑惑は一瞬にして

確信なものへとなった。


「あけおめだね、美鈴ちゃん。」


「沖野さん…

あ、明けましておめでとうございます!

あの、私…」


「今アンコール、終えたところなの。

今日はラストステージだから

今日だけのラストナンバー

…一緒に歌ってくれる?

私ね、いろんな人と歌ってきたけど

あんなにぴったりハマる人はいなかった。

美鈴ちゃんとの相性はすごくよかった。

ずっと、完璧なメロディなんて

求めてこなかった私だけど、

最後くらい、それに出会いたかったから。」


そう語る沖野さんの視線は

どこに向かっているのかわからなくて

その表情が本当に切なくて

"最後くらい"その言葉に

私はもう、涙が出てしまいそうだった。


「あ、美鈴ちゃんはまだ

完璧なメロディなんて

見つけちゃダメだからね。」


そういってかわいく笑う沖野さんも

私の目には悲しく映って仕方がない。


< 4,273 / 4,523 >

この作品をシェア

pagetop