居場所をください。



「よし、行こう?美鈴ちゃん。」


「……はい。」


まだまだ新人な私が、

沖野さんのラストステージに立ち、

ラストナンバーを共にするなんて

烏滸がましすぎるけど

それでも、私に対する

沖野さんの最後の願いだと言うのなら

私はそれに全力で答えるしかない。


親のいない私を

居場所のない私を

ずっと励ましてくれたのは

沖野さんの歌声だったから。


沖野さんは沖野さんのマネージャーさんと

私は長曽我部さんの手を握って

ステージへと目指して歩き始めた。


明日からはバラバラになるこのメンバーが

今だけは同じ道を歩いている。

明日からは別々に歩み出す私たちが

今だけは同じ道を歩いている。


それが嬉しくて、嬉しくて、

切なかった。


「ここね。

ここのセリで一緒に出るよ。

なんの告知もしてないから

すでに帰ってる人もいるかもしれないけど

最後のアナウンスはまだしてないし

電気も暗いままだから

期待してる人も多いかもね。」


そういって話す沖野さんのマネージャーさんは

もうすでに、目に涙をためていた。


「美鈴、マイク。」


「あ、うん。ありがと。」



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