居場所をください。



それから出番までの数秒間

沈黙だったけれど


……ドーム。実際はわからないけど

それでも5万人前後は入っている。

そんな大人数の前で歌うことなんか

私にはなかなか訪れる機会はない。

それがまた、私に緊張感というものを

押し寄せてくる。


「…ちょっとすみません。」


沖野さんに一言そういって

私は長曽我部さんに抱きついた。


「……ここでもかよ。」


「人数が違うんだよ。」


沖野さんのラストナンバー

決して失敗するわけにはいかない。

できれば私も楽しく、笑って

沖野さんを送り出してあげたいから。


「美鈴ちゃん、そろそろ…」


「はい。

……よし。じゃあ行ってくる。」


「おう。」


最後、長曽我部さんと目を合わせて微笑んで

私は沖野さんとセリにあがった。

そして私から、沖野さんの手を握った。


「もう緊張しまくって

足ガクガクですよ。」


「……はは、そっか。

じゃあ倒れないように

ちゃんと持ってなきゃ。」


「沖野さんもですけどね?」


私たちはそう言って笑い合うと

会場にまた、音楽が響き始めた。


「笑ってね。」


沖野さんがそういうと、

セリはゆっくりと動き始めた。


「沖野さんもですよ。」


< 4,275 / 4,523 >

この作品をシェア

pagetop